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匿名組合

ここでは、教科書に書かれていない匿名組合(商法535条以下)の基礎について、論じてみます。
商法535条 匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。

立法の沿革

旧商法268条の「共算商業組合」に由来する。(なお、共算商業組合のうち、当座組合と共分組合は、民法の組合の規定に引き継がれている。)さらにさかのぼると、合資会社の母体が匿名組合であるともいえるらしい。

ほかにも、合名会社と民法上の組合を、合資会社と匿名組合を比較して、それぞれの類似性から、歴史的な関連性が説かれています。

契約の当事者と営業

  • 匿名組合員は、商人であってもなくても差し支えない。
  • 営業者は、商人であることを要する。(東京控判明治38年8月3日)

見方を変えると、商人の営業でないものについて出資した場合、それは匿名組合とは言えない。(東京地判明治31年9月14日)

つまり、商行為に関する出資がなされて、その営業から利益配分をする契約でなければ、匿名組合は成立しない。

複数の組合員による構成

民法の組合は3人以上で構成することもできるが、匿名組合は2人で構成される。「2人以上」ではなく「2人」。

でも、実際には3人以上の当事者で構成される匿名組合もありますよね。
こんな場合は、通常、つぎのような形態をとっている。

たとえば、営業者が2人以上、組合員(出資者)が2人以上の場合は、

(営業者+営業者) 
 共同事業体
  ↓    ↓
組合員A 組合員B

ここで、「+」は民法の組合契約、「↓」は商法の匿名組合契約。

つまり、営業者同士は1つの民法の組合として1つの営業を共同して行い、営業者の共同事業に対して、個々の出資者がそれぞれ匿名組合契約を締結する。

重要なことは、このように複数の組合員が存在する場合、上記の例でいえば、組合員AとBとの相互間には、なんらの法律関係が生じないのである(長崎控判明治40年11月26日)。

もちろん、これのバリエーションとして、組合員同士で民法組合を組成して、営業者と匿名組合契約をすることもある。(こうすることで、組合員同士で横の権利義務関係を生じさせることが実現できる。いわゆる「宇部式匿名組合」というやつは、こういうことだろう。)

民法上の組合との相違点

上記の組合の構成のほかに、次のような特徴がある。

匿名組合は、営業者の単独の営業

匿名組合は、営業者の単独の営業だけど、民法組合は、各組合員の共同事業。このことから、税法上の扱いや、金融商品取引法などでの扱いが違ってくる。

事業所得

匿名組合の場合も、民法組合と同様に、組合員それぞれの事業所得として構成員課税の対象となる(パススルーされる)余地がある。(くわしくは税理士にご相談を。)

ただし、匿名組合に出資した組合員がその事業について素人の個人の場合(たとえば、匿名組合の事業運営に関与していないなど)、匿名組合の事業の所得は、組合員に対する構成員課税が否定されて、雑所得となるのが原則。

消費税

このほかに、消費税の扱いについても営業者の単独営業という原則が効いてくる。つまり、消費税の申告・納税は、営業者が行うことになって、民法組合のような組合員ごとの申告・納税ではない。

このことを利用して、所得税の課税事業者である営業者と、そうでない組合員を組み合わせて、うまいこと消費税を節税するという方法が考えられる。(具体例は示しませんよ。)

匿名組合員の出資は、営業者の財産に属する(536条1項)

つまり、対外的には、匿名組合の財産は、営業者のものということ。

民法上の組合だと、出資は組合員の共有(講学上の「合有」)に属するので、仮に、組合員の誰かが破産しても、ほかの組合員の持分にとってかかられることがない。他方、匿名組合の場合は、営業者が倒産でもしようものなら、出資した財産について組合員は「自分のだ~!」と債権者に主張できないことになる。ただし、これについては有力な反対説がある。実務的には、営業者に所在する組合員の財産を分別管理させるとか、明認方法を施す、あるいはエスクローを使うなどして、リスクを低減させる努力をしている。

倒産隔離の工夫

では、まったく倒産隔離 (bankruptcy remoteness) が図れないのかというと、そこは工夫次第。たとえば、匿名組合の営業だけを目的とした法人(SPC)を作って、そいつを営業者にするという手がある。SPC(箱、vehicle)として良く使われるのは、最近では合同会社が多いように思う。(倒産隔離をさらに徹底させるため、合同会社の社員として一般社団法人をかます方法は、不動産などの証券化スキームでよく見られるが、ここでは論じない。)

「そんなことするんだったら、匿名組合じゃなくて、合同会社に直接出資すればいいのに?」という意見もあろうが、あえて匿名組合を使うのは、主に税法上のメリットを享受するためという大人の事情がある。(さらに、米国から出資する場合だと、合同会社が入っている場合は、組合なんかと同様に構成員課税が認められるらしいので、合同会社が選好されているそうだ。自分で調べたわけではないので、裏付けはとってませんが。)

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